夏祭
りにて
・・・
作
凛子
一体
どうして
蝉
の
声
というのは
、
蒸
し
暑
い
空気
を
波打
たせるような
声
で
鳴
くのだろうか
。
真
っ
青
な
空
は
雲一
つなく
、
ぎらぎらと
日差
しは
遮
るものなく
空
から
惜
しげもなく
降
り
注
いでいる
。
そし
てその
日差
しは
、
午前中
にぱらぱらと
降
った
雨
を
暖
め
、
息
をするとまるでぬるま
湯
を
飲
み
込
んだかのよう
な
気分
になった
。
「
はぁ
・・・・・ 」
とある
見慣
れた
寺子屋
の
縁側
で
、
見慣
れた
男
が
だらしなく
素足
を
土
に
投
げ
出
し
、
上体
をぐったりと
縁
に
寝転
がったまま
、
辛
うじて
右手
に
持
ったうちわで
ゆっくりと
自分
を
扇
いでいた
。
「
暑
ちぃ
・
・・・・
」
普段
は
颯
爽
としていて
元気
のよい
北原鷹月
だが
、
湿気
をたっぷり
含
んだ
ムシムシ
した
空気
に
纏
わりつか
れ
、
ぐったりとしてしまっていた
。
時刻
は
夕方
に
差
し
掛
かって
は
いたが
、
日
の
長
い
夏日
のこと
、
日差
しは
まだ
厳
しかった
。
手習
いが
終
わり
子供
たちが
帰
り
、
三人
で
片付
けをしてさあ
帰
ろうと
思
った
時
だった
。
桂
介
の
所
に
人
が
訪
ねてきた
。
部屋
に
通
され
、
話
はすぐに
済
むかと
思
い
何
もしないで
庭
を
眺
めているうちに
、
だんだんと
汗
が
出
てきて
参
ってしまったのである
。
「
ねえ
、
そんな
所
でごろごろしてないで
、
部屋
の
中
へ
入
りなさいよ
」
ふっと
自分
の
顔
に
影
ができ
、
鷹月
は
憂鬱
そうにそちらの
方
へ
目
を
上
げた
。
丸髷
に
結
った
髪
に
緑色
の
着物
の
袖
をたすき
掛
けにした
凛
が
、
呆
れた
様
に
鷹月
を
覗
き
込
んでいた
。
肌
の
色
が
白
くて
、
常
に
何
かに
興味
を
持
っているように
大
きな
目
を
輝
かしている
凛
は
、
汗
ばんではいるものの
、
いたって
涼
しげな
顔
である
。
「
お
前
、
よくこの
暑
さで
動
き
回
れるなぁ
」
「
何
もしないでごろ
ごろしてるから
余計暑
いのよ
。
そんな
所
にずっといると
腐
るわよ
!」
腐
るって
ー
と
抗議
する
鷹月
の
言葉
を
無視
し
、
凛
はしゃがみ
込
むと
鷹月
の
背中
を
持
ち
上
げはじめる
。
「
ほら
ー
、
邪魔
なのよ
」
「
退
け
ばいいんだろう
、
分
かったよ
」
しぶしぶ
片肘
を
着
いて
半身
を
起
こす
。
もう
一度
「
はあ
」
とため
息
をつくと
、
鷹月
は
奥
の
部屋
に
目
をやり
ながら
呟
いた
。
「
しかし
、
まだ
話
は
終
わらないのか
、
桂介
は
?」
と
、
本格的
に
身
を
起
こそうとした
時
である
。
「
お
断
りいたします
!
絶対
に
嫌
です
!」
客間
から
突然桂介
の
怒鳴
り
声
が
響
いた
。
声
にびっ
くりして
飛
び
起
きた
鷹月
と
身
を
竦
めた
凛
は
、
唖然
とし
て
顔
を
見合
わせる
。
「
桂介
だよな
?
今
の
」
「
う
、
うん
」
鷹月
が
城
を
抜
け
出
して
、
凛
も
逃走
して
町屋
の
桂介
の
家
に
転
がり
込
んでこれまで
、
桂介
が
他人
に
対
してあ
ん
な
声
を
荒
げたのを
聞
いた
事
がない
。
二人
は
頷
き
合
う
と
、
音
を
立
てないようにしながら
、
しかし
素早
く
客
間
の
向
かいの
部屋
へ
忍
び
込
み
、
そうっと
襖
に
耳
を
当
てた
のである
。
確
か
訪
ねて
来
た
のは
、
町
の
名代
と
宮司
だった
。
「
そこを
何
とか
頼
めませんか
?」
「
お
断
りすると
言
ってます
」
「
ですが
・・・
式事
にのっとって
桂介先生
が
選
ばれたのです
よ
」
「
もう
一度
やり
直
して
見
ればいいでしょう
。
とにかく
私
は
駄目
です
、
お
断
りします
」
こんな
断固
とした
態度
で
人
に
接
する
桂介
を
見
た
事
がない
。
式事
?
鷹月
と
凛
が
顔
を
見合
わせ
首
をひねる
。
「
一度
引
き
受
けていた
だければ
、
今後二度
と
回
って
来
る
事
はありませんから
・・・
」
すでに
無視
を
決
め
込
んでいるのか
、
桂介
の
返事
さえ
返
って
来
ない
。
「
まいったなぁ
、
まさか
桂介先
生
に
引
き
受
けていただけないとは
思
いもしなかった
」
客人二人
は
本当
に
困
ったように
声
を
濁
している
。
鷹月達
も
一体何
が
起
きているのか
、
もっと
耳
をそばだ
てようと
動
いた
時
だった
。
「
わぁ
!」
突然
スッ
と
寄
りかかっていた
障子
が
開
き
、
もたれ
掛
かるつもりだった
二人
はそのまま
部屋
の
中
に
倒
れこ
んだのである
。
「
若様
、
凛
さん
、
行儀
が
悪
いですよ
」
障子
に
手
を
掛
けて
、
畳
に
突
っ
伏
して
いる
二人
にため
息交
じりにそう
言
った
。
鷹月
と
凛
は
、
気
まずそうに
桂介
に
笑
いかけ
、
そして
客人
に
も
頭
を
下
げる
。
客人
は
一時
だけ
困
った
表情
を
和
ませ
、
二
人
に
笑顔
で
頭
を
下
げる
。
しかし
、
桂介
の
方
は
にこりともせず
、
眉間
に
皺
を
寄
せたままである
。
日
ごろ
温和
な
事
で
知
られてい
る
栗原桂介
がこんな
態度
に
出
る
のはよっぽどの
事
。
桂介
に
こんな
態度
を
取
られたら
、
普通
の
人
だったらさ
っさと
諦
めて
帰
る
事
だろう
。
しかし
、
名代
と
宮司
は
困
った
顔
を
浮
かべてはいるが
、
なんとか
桂介
を
説得
し
たいようだ
った
。
ここは
乗
りかかった
船
、
と
鷹月
はその
場
に
座
り
直
すと
、
名代
に
声
を
掛
けた
。
「
一体
、
どうしたんだ
?」
はあ
、
とぺこりと
頭
を
下
げた
後
、
ちらりと
桂介
を
見
、
それから
名代
はおずおずと
話
し
始
めた
。
「
実
は
今年
の
祭
り
の
年男
に
桂介先生
が
選
ばれたのでございます
」
「
祭
りって
、
鳴海神社
の
夏祭
の
事
か
?」
「
そうでございます
。
その
年男
が
桂介先生
なんですよ
」
鳴海神社
とは
、
この
北原
の
領内
にあるかなり
古
い
神社
で
、
海
の
神
が
祭
られており
水害
や
漁船
の
為
の
社
で
ある
。藩
のお
社
でもありので
、北原家
でも
節目
の
行事
にはこの
神社
に
参拝
してい
た
。確
か
鷹月
が
小
さい
頃
、
何
かの
祭事
で
父上
と
行
った
思
い
出
があった
。
「
お
祭
りの
年男
!?
楽
しそうじゃない
!」
お
祭
りと
聞
いただけで
、
凛
の
表情
はぱっと
明
るくなった
。
この
藩
に
来
てから
祭
りを
見
るのは
初
めてなの
である
。
鷹月
もそう
だそうだと
頷
いて
、
桂介
を
見
た
。
桂介
はぼそりと
「
楽
しそうだなんて
・・・
」
と
呟
く
。
「
何
がそんなに
嫌
なんだよ
?」
それでも
桂介
は
何
も
言
わない
。
こりゃよっぽどの
事
だなぁ
、
と
鷹月
も
凛
も
思
った
。
桂介
が
沈黙
を
破
らな
いので
、
凛
は
仕方
なく
宮司
に
質問
をする
。
「
祭
りの
年男
って
何
なんですか
?」
「
はい
、
年男
は
毎年
干支
の
独
者
の
青年
の
中
から
一人
だけ
選
ばれます
。
神宮
の
中
にある
海岸
から
名前
を
書
い
た
札
を
投
げ
、
最初
に
岸
に
上
がった
名前
の
者
が
海
の
神
に
選
ばれたその
年
の
年男
と
決
まります
」
「
なかなか
、
本格的
なんだな
」
「
はい
、
なにせこの
祭
りは
五百年前
より
続
くもの
で
、
重要
な
儀式
の
一
つ
なのです
」
「
で
、
選
ばれた
年男
は
何
をするの
?」
「
はい
、
神社
のご
神
体
が
海岸
にある
灯明
岩
だというのを
ご
存知
ですか
?
古
くより
海
から
港
に
入
る
船
が
、
あ
の
岩
を
目印
にしてやって
来
ているのです
。
それで
年男
は
神官達
と
同
じ
装束
となり
、
その
岩
に
向
かって
舟
で
行
き
、
白羽
の
矢
を
投
げます
。
その
矢
がどの
様
になったかを
見
て
、
その
年
の
海
の
事
を
占
うのです
。
矢
が
岩
の
上
に
乗
れば
大吉
、
引
っかかった
後海
に
落
ちれば
吉
、
そのまま
海
に
落
ちてた
場合
は
凶
となります
」
「
ふ
ー
ん
」
そんな
難
しい
事
で
はなさそうだが
、
と
鷹月
は
頷
いた
。
しかし
宮司
の
話
はそこで
終
わらなかった
。
「
しかし
今回
は
、
桂介先生
を
お
武家様
と
見込
んで
、
いつもとは
違
うお
願
いをさせていただきたかったので
すが
・・・
」
「
違
う
?」
「
ええ
、
違
うといいますか
、
本当
の
儀式
を
行
いたいと
。
昔
の
記述
を
見
ますと
、
この
儀式
の
本式
は
年男
が
小
舟
で
沖
に
出
て
岩
の
側
まで
行
き
、
弓
で
矢
を
射
るのです
。
岩
の
頂上
に
突
き
刺
さるか
乗
れば
、
すべての
海
での
災
いを
払拭
する
と
言
われています
。
しかし
町
の
人
々
の
祭事
となった
今
では
、
弓
を
射
る
者
など
滅多
におりませ
ん
。
ところが
今年
はお
武家様
が
式辞
により
選
ばれました
。
なので
ぜひ
桂介先生
に
引
き
受
けて
頂
いて
、
この
儀式
の
本式
をお
願
いしたい
。
弓
を
射
って
頂
きたいと
思
う
所
なのです
」
それに
一番
に
反応
したのは
凛
だった
。
目
を
輝
かせて
桂介
の
方
に
目
を
輝
かせた
。
「
やりましょうよ
!
私
も
ぜひ
見
たいわ
!
」
桂介
が
戸惑
ったように
答
える
。
「
しかし
弓
は
、
私
は
・・・・
」
「
苦手
とか
言
うなよ
。子供
の
頃
、藩
の
流鏑馬大会
で
、お
前
が
子供
たちの
中
で
唯一
すべての
的
を
射抜
いたの
、
覚
えてるんだからな
」
おお
!
これは
適
任
!
と
二人
が
声
を
上
げる
。
桂介
は
恨
めしそうに
鷹月
を
睨
んだだけである
。
「
それにこの
祭
りには
藩主
ご
一族
と
藩士
の
方
々
が
祭事見物
に
訪
れる
場合
があります
。
今年
はぜひとお
声
を
お
掛
けしようと
思
っております
。
一度本当
の
祭事
を
拝謁
いただきたい
」
それに
言葉
を
失
ったのは
鷹月
だった
。
てことは
兄上
が
見
に
来
るのか
?
それはまずいかもしれない
。
きっ
と
藩士
の
中
にも
桂介
の
顔
を
見知
っている
者
もいるだろうし
、
そんな
所
で
自分
と
凛
がうろうろしていたら
、
騒
ぎになるかもしれない
。
そういう
理由
で
断
っているの
かと
鷹月
が
桂介
を
見
れば
、
この
言葉
に
対
しては
桂
介
は
ムキ
になって
否定
しなかった
。
逆
に
主人
に
対
する
忠誠心
をくす
ぐられたのか
、 (
一応
)
藩士
としての
義
務感
に
桂介
は
一瞬顔
を
上
げ
、
視線
が
揺
れた
。
「
おい
、
桂介
?」
桂介
を
良
く
知
る
鷹月
だから
逆
に
、
どうしてこんなに
ムキ
になって
拒否
するのか
その
理由
が
分
からなかっ
た
。
町
の
行事
にはいつも
積極的
に
参加
しているし
、
まして
氏神
の
祭
りとなれば
快
く
受
けるはずだ
・・・
。
そんないぶ
かしげに
覗
きこんで
来
る
鷹月
と
凛
に
根負
けしたのか
、
桂介
は
、
大
きくため
息
をつくと
、
決心
し
たように
言
い
放
ったのである
。
「
私
は
泳
げないんです
!
舟
に
乗
るのも
苦手
です
」
しばらく
全員
がぽかんとしていた
。
が
、
そこで
先
に
声
を
出
したのは
宮司
だった
。
宮司
は
桂介
の
方
へ
手
を
伸
ばしながらずいっと
膝
を
寄
せた
。
「
大丈夫
です
。
舟
を
操
るのは
腕
のいい
漁師
です
。
荒
れた
海
に
漕
ぎ
出
すわけではあ
りませんし
、
祭事
ですの
で
舟
が
沈
むという
不吉
な
事態
は
絶対
にさせません
。
その
所
は
ご
安心
ください
」
「
もし
私
が
正気
を
保
てなくて
舟
から
落
ちたりすれば
、
それこそ
不吉
でしょう
。
申
し
訳
ありませんが
、
他
を
お
探
しください
」
「
桂介先生
・・・・
」
名代
と
宮司
は
大
きくため
息
をつくと
、
仕方
ないと
いう
様
に
視線
を
合
わせた
。
桂介
の
身近
な
人間二人
が
説
得
してもこの
有様
である
。
到底桂介
の
心
を
変
えさせる
事
はできないと
思
ったのだ
。
凛
は
不満
な
顔
をしてい
たものの
、
仕方
ないのかも
、
と
思
っていた
。
確
かに
泳
げない
人間
にとって
小舟
で
海
に
出
るなんてすごい
恐
怖
だろうし
、
言
うように
正気
を
保
っていられないかもしれない
。
鷹月
の
方
はふん
・・・
と
声
を
出
したきり
口
を
歪
めていた
。
「
よしわかった
!」
突然
きっぱりと
言
い
切
った
鷹月
に
、
桂介
が
訝
しげに
視線
を
投
げる
。
何
が
分
かったのだろう
?
まさか
自分
が
出
るとか
言
い
出
すのでは
?
それはそれで
桂介的
に
困
る
!
鷹月
は
桂介
の
方
を
見
てにんまり
笑
った
。
「
耳
を
貸
せよ
。
いいか
、
もしお
前
がこれを
受
けたら
・・・・・・
」
そこから
先
は
、
桂介
の
耳
にごにょごにょと
話
しかけた
。
戦
々
恐
々
な
顔
で
聞
いていた
桂介
だったが
、
いき
なり
バッ
と
身
をはがし
、
鷹月
の
顔
を
見
つめる
。
「
本当
ですね
?
」
「
武士
に
二言
はない
」
名代
と
宮司
、
そして
凛
の
三
人
は
訳
が
分
からなかったがその
言葉
を
聞
いて
明
るい
表情
で
視線
を
合
わせた
。
なんだか
話
がいい
塩梅
になってきたようである
。
それでも
桂介
は
悩
むように
眉
を
寄
せ
床
を
見
つめていたが
、
もう
一度鷹月
を
見
て
同
じ
事
を
問
う
。
「
絶対
で
すよ
?
本当
にするんですね
?」
「
しつこいな
、
するったらするよ
」
やや
機嫌
を
損
ねたよ
うに
口
を
尖
らす
鷹月
。
桂介
は
伺
うように
鷹月
を
見
つめていたが
、
決心
したような
諦
めた
様
な
ため
息
をつくと
、
うな
垂
れるようにして
首
を
縦
に
振
った
のである
。
「
分
かりました
。
お
受
けいたします
」
名代
と
宮司
はおお
!
と
声
を
上
げて
思
わず
手
を
叩
いて
いた
。
凛
もとても
嬉
しそうに
声
を
上
げたが
、
一体
鷹
月
は
桂介
とどんな
約束
をしたのか
気
になって
仕方
がなかった
。
祭日
の
日取
りより
三日前
から
、
桂介
の
年男
の
儀式
は
始
まった
。
年男
はすべての
着物
と
肌着
は
新
し
い
物
を
身
に
着
け
る
。
そしてまず
年男
の
選別
が
行
われた
神社
に
中
にある
浜
から
海
に
入
り
身
を
清
めた
。
その
後神殿
で
祓
いとお
神酒
を
受
けて
1
日目
は
終
わりである
。
しかし
、
当日
まで
に
儀式
の
内容
を
覚
え
、
弓
の
練習
をする
事
、
そして
生活
の
衣食住
の
一切
をみんなと
分
けなければいけないと
聞
いた
桂介
は
、その
日
から
神社
の
詰
め
所
に
泊
まりこむ
事
にしたのだった
。鷹月達
が
桂介
に
次
に
会
えるのは
、
祭事
の
時
となった
。
その
日
は
鷹月
と
凛
は
夕飯
を
飯屋
ですませる
事
にした
。
「
でも
、
よく
引
き
受
けたわよね
ー
。
あんな
怒
った
桂介
なんて
見
た
事
なかったのに
」
「
なあ
」
「
それ
に
泳
げなくて
海
が
怖
い
人
が
小舟
から
弓
を
射
るなんて
、
いくら
桂介
が
弓
の
心得
があっても
難
しいんじ
ゃない
?
」
「
だよな
」
そういいながら
パクパク
食
べ
物
を
口
に
運
ぶ
鷹月
に
、
凛
はむっとしてわざと
音
を
立
てて
箸
と
茶碗
を
置
いた
。
「
な
、
なんだよ
?」
「
いい
加減
に
教
えなさいよ
。
いったい
桂介
と
何
を
約束
したのよ
?」
ああその
事
か
、
と
鷹月
は
笑
った
。
「
別
に
対
した
事
じゃないさ
」
と
突然鷹月
は
思
いついたように
眉
を
上
げると
、
凛
の
顔
を
覗
き
込
んだ
。
「
凛
も
一緒
にやるか
!」
不思議
がっている
凛
に
鷹月
は
手
を
振
って
耳
を
貸
せと
言
い
、
鷹月
はまたあの
時
のように
耳打
ちした
。
最初
訝
しげだった
凛
の
顔
が
見開
かれ
、
最後
は
口
をあんぐりと
上
げると
甲高
い
声
を
上
げた
。
「
え
ー
!!」
店
の
主人
や
客
の
視線
が
二人
に
注
がれる
。
慌
てて
鷹月
が
凛
に
シー
と
指
を
口元
に
立
て
、
凛
も
両手
で
口
をふさ
いだ
。
にやりと
笑
った
鷹月
がもう
一度楽
しそうに
言
った
。
「
これで
当日
は
、
一等席
で
祭事
が
見
られるぜ
」
祭事
の
初日
。
すでに
神社
の
門前
あたりは
祭
りの
賑
わいとなっている
。
露店
や
猿回
しなどの
見世物
が
やっ
て
来
て
、
子供
たちは
今日
ばかりは
飴
や
面
を
買
ってもらい
、
楽
しそうに
辺
りを
動
き
回
っていた
。
祭事
が
行
わ
れる
海岸
沿
いにも
人
々
が
集
まり
始
めていた
。
桂介
が
今年
の
年男
だと
言
う
話
は
町
に
広
がり
、
寺子屋
の
子供達
もその
両親
も
楽
しみに
見
に
来
ていた
。
賑
わいを
避
けるように
、
神社
のしめ
縄
で
区切
られた
場所
に
、
黒塗
りの
姫駕籠
が
降
ろされた
。
付
いていた
侍女
が
駕籠
を
開
けると
、
艶
やかな
薄桃色
の
打
ち
掛
けを
纏
い
、
顔
の
両側
の
髪
を
少
し
前
に
垂
らし
、
大名
の
姫君
のように
(
ま
大名
の
姫
なのだが
)
大
きく
結
った
髪
に
豪華
な
簪
をさした
凛
が
姿
を
現
した
。
着物
の
前
と
手
を
侍
女
に
預
け
、凛
は
静
々
と
砂利道
を
進
む
。久
々
にこんなもの
着
た
。久
しぶりに
着込
んだ
着物
は
暑
いわ
、重
いわ
、
動
きづらいわ
で
、
自然
とおしとやかに
振舞
えている
。
「
ようお
越
しくださいました
、
姫様
」
浜
にはまるで
合戦
の
折
りの
陣
のように
、
幕
が
引
かれておりそこには
藩士
た
ちが
、
裃姿
で
祭事
が
始
まるの
を
待
っていた
。
そこへ
入
る
入口
で
、
初老
の
藩士
がにこやかに
凛
を
迎
えた
。
どうやら
凛
の
事
は
知
らないよう
で
、
鷹月
から
聞
いたのは
、
今日凛
は
栗原家
の
遠縁
の
姫
という
事
になっている
。
「
お
招
き
頂
き
、
ありがたく
存
じます
」
凛
はにっこり
笑
い
、
裾
の
長
い
着物
の
前
を
持
つと
、
前
を
歩
く
武士
に
続
いて
静
々
と
進
んだ
。
北原
の
家臣達
が
凛
に
向
かって
、
略式
に
頭
を
下
げる
。
どんどん
上座
に
案内
され
、
凛
は
内心
いいのかなぁ
、
と
焦
りだした
。
結
局案内
された
場所
は
上座
のすぐ
横
、これじゃあ
、まるで
藩主
との
見合
いみたいじゃない
。目
の
前
を
見
ると
、
すぐ
海岸
で
海
に
面
して
置
かれた
祭壇
も
、
桂介
が
乗
る
白木
の
舟
も
目
の
前
だ
。
確
かにとても
見
やすいが
、
藩主
の
横
などにいては
緊張
してしまってそれ
所
ではないだろう
。
一体鷹月
はなんと
言
って
凛
を
入
れたのだろう
。
祭
りの
見物人
が
集
まり
始
め
、
祭事
の
時刻
が
近
づいた
頃
、
「
若君
のおなり
」
という
声
がかかる
。
全員
もちろん
凛
も
頭
を
下
げた
。
「
若様
、
お
久
しゅうございますな
」
「
ああ
、
久
しいな
」
ぴんと
張
り
詰
めた
、
そんな
会話
が
頭上
でされる
。
そして
颯爽
とした
風
が
凛
の
横
を
通
りすぎ
、
凛
の
斜
め
前
へ
座
った
。
いいのかなぁ
ー
・・・
。
凛
はうつむいたまま
、
ちらりと
目
の
前
を
見
る
。
そこには
北原藩主
の
後姿
があっ
た
。
なぜ
、
こんな
所
にいるのか
自分
でも
分
からない
。
「
おい
、
凛
。
特等席
だろ
?」
鷹月
の
声
が
近
くで
聞
こえ
、
凛
はびっくりして
下
の
席
をきょろきょろ
見渡
した
。
「
こっちだよ
」
ぽんぽんと
扇
のようなもので
、
手
を
叩
かれた
。
びっくりして
視線
を
戻
した
先
には
、
上座
から
振
り
返
った
北原藩主
が
笑
っていた
。
それは
鷹月
だった
。
「
た
!
鷹月
!?」
白
に
金糸
の
刺繍
の
入
った
着物
に
濃紺
の
紋付
の
羽織袴
。
いつもはぼさぼさで
適当
に
縛
っている
髪
も
綺麗
に
ま
とめられている
。
それが
妙
にすっきり
似合
っていて
、
風格
があったりす
る
。
どこから
見
てもお
殿様
だっ
た
。
北原
の
代理
を
引
き
受
けたから
、
と
言
って
いたがまさかこんな
所
にいるとは
思
ってもみなかったのであ
る
。
「
殿
の
弟君
の
身代
わり
を
引
き
受
けたのさ
」
「
いくらなんでも
、
恐
れ
多
いわよ
!」
鷹月
は
持
っていた
扇
をぱらりと
開
くと
、
あせっている
凛
の
耳
に
顔
を
寄
せ
、
さらりと
言
ってのけた
。
「
いや
、
なんでも
オレ
は
北原政平様
の
弟
君
にそっくりなんだそうだ
。
でもそいつ
・・・・
弟君
は
病
に
伏
せ
っていてなかなかこういう
所
に
出
てこられないらしい
。
こういった
行事
の
時
には
殿様
の
代理
で
行
かせたい
のだが
、
って
前
々
から
身代
わりをしてくれって
頼
まれていたんだよ
。
だから
もしこの
祭事
を
桂介
が
受
けた
ら
、
やってもいいって
言
ったんだ
」
本当
は
桂介
が
引
き
受
けたら
北原鷹月
として
、
上座
に
座
ってやると
言
ったのだ
。
凛
が
恐縮
して
頭
を
下
げて
いる
間
、
下座
の
家臣達
は
久
々
に
姿
を
見
せた
鷹月
を
懐
かしそうに
見
ていたのである
。
と
、
その
時
。
ドーンドーン
と
太鼓
の
音
が
響
いた
。
「
お
、
始
まるぞ
」
神殿
からの
玉砂利
の
道
を
何人
かの
人
たちが
海岸
に
向
かって
降
りてきた
。
黒
の
鳥帽子
に
白
い
狩衣姿
の
神官
達
は
、
鳥居
をくぐり
浜
へと
続
く
。
まず
浜
に
姿
を
現
したのは
神器
とお
供
え
物
を
持
った
神官達
だった
。
海風
に
はためく
祭壇
に
神主
と
神器
、
供
え
物
が
揃
う
。
その
後
、
年男
が
姿
を
現
した
。
おお
ー
という
感嘆
の
声
が
見物
人
から
上
がる
。
藩士達
の
席
でも
、
同
じように
声
があがった
。
現
れたのは
京
の
公家
のような
姿
をした
桂介
だった
。
大名
の
被
る
大名
烏帽子
ではなく
、
公家
の
烏帽子
に
白
の
単
袴
の
上
に
黒
の
狩衣
を
纏
っている
。
裾
を
絞
り
、
皮靴
を
履
いていた
。
背筋
を
伸
ばし
、
真
っ
直
ぐに
前
を
見
や
り
、
手
をやや
張
りぎみに
開
いてゆっくりと
歩
く
その
姿
は
、
颯爽
としていた
。
藩士
の
中
には
桂
介
の
顔
を
覚
え
ている
者
もいただろう
。
しかし
、
その
雅
な
姿
を
見
て
誰
もあの
栗原桂介
だと
気
がつかない
様
だった
。
「
かっこいい
ー
・・・ 」
かなり
間抜
けな
顔
をして
、
見
つめていたに
違
いない
。
だが
凛
は
思
わずそうつぶやいてしまった
。
鷹月
も
黙
ったまま
二
度頷
いた
。
桂介
は
二人
の
前
に
来
ると
、
ゆっくりと
礼
をした
。
思
わず
手
を
振
りそうになった
凛
だったが
、
あの
鷹月
が
ゆったりと
笑
みを
見
せ
頷
いたのを
見
て
、
慌
てて
凛
もそれにならう
。
それから
桂介
は
祭壇
へと
行
き
、
祝詞
を
受
けるために
頭
を
垂
れて
座
った
。
お
払
いを
受
けている
間
、
桂介
は
ちらりと
海
の
方
へ
目
をやった
。
程
よい
風
に
少
々
波
はあるが
、
かなり
穏
やかだった
。
空
を
見
れば
夏
の
入道雲
ははるかかなたの
地平線
を
覆
っているだけで
、
目
の
前
は
晴
れ
渡
っていた
。
なんとか
大丈夫
だろう
、
桂介
は
ふうと
息
をつく
。
「
桂介先生
、
大丈夫
ですよ
」
お
払
いが
終
わり
、
いよいよ
岸
に
寄
せられた
舟
に
乗
る
時
、
漕
ぎ
手
の
男
が
緊張
している
桂介
にそう
声
をかけ
て
来
た
。
聞
いた
事
のある
声
に
、
顔
を
見
ればそれは
寺子屋
に
来
ている
子供
の
父親
だ
った
。
桂介
は
見知
った
人
が
一緒
だと
知
りほっとし
、
そして
笑顔
で
頷
く
。
「
よろしくお
願
いします
」
舟
には
先頭
に
年男
の
桂介
、その
後
ろに
弓矢
を
持
った
宮司
が
乗
り
込
み
。漕
ぎ
手
が
舟
を
押
し
一番後
ろに
乗
った
。
舟
はゆらゆらと
揺
れながらゆっくりと
沖
に
出
る
。
桂介
は
舟
の
縁
にしがみつきたい
衝動
を
必死
に
抑
え
、
足
を
踏
ん
張
った
。
フワフワ
と
揺
れる
感覚
、
自分
が
固
まっていないとすぐにでもひっくり
返
ってしまうのではな
いかと
思
ってしまう
。
岸
で
見守
っ
ていた
二人
も
、
桂介
が
舟
の
上
で
ガチガチ
に
固
まってしまったのを
見
て
心配
した
。
実際心配
し
ているのは
凛
だけで
、
鷹月
はあまりの
強張
った
背中
に
笑
い
転
げたくて
仕方
がない
様子
だった
。
「
鷹月
っ
」
鷹月
の
背中
が
妙
に
揺
れているのを
見咎
めた
凛
が
、
小
さい
声
でたしなめ
、
視線
を
合
わせてきた
鷹月
を
睨
ん
だ
。
鷹月
は
眉
を
吊
り
上
げそれに
答
えると
、
また
正面
を
向
く
。
本当
だったら
「
がんばれ
ー
!」
の
声援
の
一
つ
も
送
りたい
所
だったが
、
北原家
の
代表
として
座
っている
以上
そんなはしたない
真似
はできないな
、
とさす
がの
鷹月
もこらえた
。
「
桂介先生
、
そんなに
ガチガチ
に
固
まっていたら
、
船酔
いしますよ
」
「
は
、
はい
」
後
ろから
軽
く
笑
い
声
がする
、
宮司
も
笑
っているのだ
。
なんとなく
桂介
の
体
から
緊張
が
抜
けて
、
桂介
の
顔
も
綻
んだ
。
そうだ
、
馬
に
乗
って
悪路
を
渡
っていると
思
えばいいんじゃないか
。
馬
だったらどんな
悪路
で
揺
れようとも
落
ちる
事
はない
。
桂介
は
一度目
を
閉
じ
大
きく
息
を
吸
って
吐
き
、
馬
に
乗
っているんだと
自分
に
言
い
聞
かせ
、
そして
目
を
開
け
た
。
するとなんとか
落
ち
着
いていた
。
顔
を
上
げると
、
目
の
前
にご
神体
である
岩
が
迫
ってきている
。
岸
からそれほど
離
れた
場所
にある
訳
ではないので
、
その
岩
の
姿
は
ずっと
見
えていたの
だが
、
舟
で
側
まで
行
くと
とても
高
く
見
えた
。
「
先生
、
大丈夫
ですか
?」
「
ええ
、
大丈夫
です
」
かなり
落
ち
着
いた
声
に
宮司
もほっとした
顔
をする
。
桂介
は
岩
を
見据
えると
、
すっと
舟
の
上
に
立
った
。
立
ち
上
がった
時大
きく
左右
に
揺
れたが
、
漕
ぎ
手
がうまく
緩衝
してその
揺
れを
止
める
。
立
ち
上
がった
桂介
の
頬
にふわっと
水面
を
伝
って
舞
い
上
がってきた
風
が
通
り
抜
けた
。
ゆっくりと
吸
い
込
むと
、
今度
は
潮
の
香
り
が
桂
介
の
体
を
巡
る
。
先
ほどまではにおいも
感
じられなかったのだから
随分落
ち
着
いて
来
た
、
と
改
めてほっと
安
心
した
。
いよいよ
本番
である
。桂介
は
宮司
から
弓
を
受
け
取
り
、そして
矢
を
受
け
取
った
。見
ているすべての
人間
は
、
桂
介
の
構
える
弓
に
集中
する
。
足
を
ハ
の
字
にして
開
き
、
体
を
岩
に
向
かって
垂直
に
構
えた
。
一度目標
の
場所
を
見据
え
、
弓
の
弦
に
矢
を
当
て
やんわりと
三
つ
取
りで
握
る
。
そこでまた
一呼吸置
いた
後
、
きりきりと
弓
を
視線
の
高
さで
絞
り
矢
の
方向
を
目線
と
一直線
に
合
わせる
。
そして
風
の
向
きなどを
考
えて
目標
の
岩
の
上
に
狙
いを
定
めた
。
黒
い
狩衣姿
の
秀麗
な
立
ち
姿
の
青年
が
、
青
い
海
に
浮
かぶ
木船
の
舳先
に
立
ち
、
袖
や
裾
を
風
にそよがせ
真
っ
青
な
空
に
向
かって
弓
を
構
える
姿
はとても
荘厳
で
、
そこにいる
者
すべて
を
魅了
した
。
たくさんの
人
がいる
にも
関
わらず
、
その
場
は
静寂
に
包
まれていた
。
桂介
は
構
えながら
風
が
切
れるのを
待
っ
ていた
。
ここへ
来
る
までの
感覚
から
行
くと
、
風
は
沖
から
二度三度吹
いた
後
、
すっと
一時止
まるのだ
。
桂介
は
構
えた
姿勢
のまま
その
時
を
狙
う
。
と
、
ふっと
自分
の
体
が
軽
くなった
。
風
が
止
んで
弄
られていた
帽子
や
衣
が
開放
されたのだ
。
途端
、
桂介
はぱっと
右手
を
離
し
、
矢
を
空
へ
向
けて
放
った
。
空
を
貫
くような
勢
いで
上
に
上
に
飛
んだ
白羽
の
矢
。
やや
勢
いを
失
うと
今度
は
矢
じりを
下
にするように
放物
線
を
描
き
岩
に
迫
った
。
鷹月
と
凛
は
思
わず
体
を
前
に
乗
り
出
す
。
少
し
ずつだったであろうが
凛
は
前
に
にじり
出
ていたらしく
、
その
頃
には
鷹月
の
真横
にいた
。
弓
を
持
つ
手
を
緩
めた
桂介
も
、
矢
の
行
き
先
を
見守
る
。
岩
の
真上
でさらに
飛
ぶ
勢
いを
落
とした
矢
はは
矢
じりを
下
に
向
け
、
そしてそのまま
頂上
に
突
き
刺
さったのである
。
わぁっと
言
うすごい
歓声
が
海岸
を
包
んだ
。
「
お
見事
!」
不安
そうに
見守
っていた
桂介
に
、
宮司
がそう
声
をかけた
。
振
り
返
った
桂介
は
宮司
と
漕
ぎ
手
に
向
かって
、
ほっとしたような
、
本当
に
嬉
しそうな
笑顔
を
見
せたのだった
。
「
わぁ
!」
と
思
わず
膝立
ちになって
鷹月
と
凛
は
声
を
上
げると
、
お
互
いの
手
を
取
って
跳
ねていた
。
「
若様
」
ゴホン
と
声
がして
、
控
えていた
初老
の
藩士
が
声
をかける
。
鷹月
と
凛
ははっとして
我
に
返
り
、
ぱっと
身
を
離
した
。
すっか
り
自分
がいる
場所
を
忘
れてた
、
と
凛
も
首
を
竦
めて
佇
まいを
直
したのである
。
凛
がちらりと
下座
を
見
てみると
、
何人
かの
藩士
が
微笑
ましそうに
二人
を
見
ている
。
しまった
、
きっと
北原
の
若
様
との
仲
を
誤解
されている
。
どうしようかと
思
った
凛
だが
、
言
い
訳
をする
訳
にもいかないのでそのままつ
澄
まして
前
に
顔
を
向
けたのである
。
その
時
に
鷹月
の
方
を
伺
うと
、
そんな
事
も
気
にせず
笑顔
で
桂介
が
岸
に
戻
って
来
る
のを
見
つめ
待
っていた
。
まるで
本当
の
若様
のようである
。
凛
はこの
鷹月
の
肝
の
据
わった
姿
に
、
もしかした
ら
本当
にそうなのかしら
・・・
と
思
ったが
、
いつものぐうたら
ぶりを
思
い
浮
かべ
、
いややっぱり
絶対
に
違
うなと
思
い
直
したのだった
。
きっと
何度
も
身代
わりをしているのだろうから
、
慣
れているのだ
。
舟
を
降
りた
桂介
はそのまま
真
っ
直
ぐ
鷹月
と
凛
の
所
へやってきた
。
もしこんな
格好
をしていなかったら
、
三人
で
抱
き
合
って
大喜
びだろう
。
しかし
桂介
は
穏
やかに
笑顔
を
浮
かべ
、
立
ち
上
がった
鷹月
の
前
まで
来
ると
片膝
を
突
いて
頭
を
下
げた
。
「
見事
だったぞ
」
「
は
、
身
に
余
るお
言葉
」
ちらりと
桂介
が
鷹月
の
顔
を
見
ると
、
それまで
穏
やかな
笑顔
だった
鷹月
が
一瞬
にっと
笑
い
片目
を
閉
じて
見
せた
。
桂介
も
目
だけで
笑
うともう
一度頭
を
下
げ
、
下
がったのだった
。
横
で
見守
っていた
凛
は
、
鷹月
の
堂
に
入
った
態度
も
桂介
が
主
に
向
かって
頭
を
垂
れる
姿
もどうしてこんなに
違和感
がないのだろうか
、
と
驚
いてし
まう
。
凛
がこの
二人
のこの
日
の
姿
が
、
実
は
本当
の
関係
だと
知
るのはもう
少
し
先
の
話
である
。
チ
、
チ
、
チチチ
チチ
昼間
の
蝉
の
声
と
大違
い
。
夜
のねっとりとした
空気
を
微
かに
震
わすような
音
と
共
に
、
小
さな
火花
がまるで
菊
の
花
のように
広
がり
、
僅
かに
暗闇
を
照
らす
。
鷹月
は
縁側
に
寝
そべって
、
桂介
は
縁
に
腰掛
けた
姿勢
で
、
線
香花火
を
楽
しんでいた
。
ぽとりと
火
の
玉
が
地面
に
落
ちると
、
そ
れを
水
の
張
ったたらい
に
捨
てて
、
また
新
し
い
新
しい
花火
を
摘
み
取
り
、
蝋燭
の
火
をつける
。
大役
を
終
えた
桂介
もいっとき
北原
の
人間
に
戻
っていた
鷹月
も
、
すっかりいつもの
服装
に
戻
って
桂介
の
家
で
花火
の
色
を
見
て
楽
しんでいた
。
花火
は
凛
が
北原
から
戻
る
時
に
貰
ったお
土産
だ
った
。
きっと
事情
を
知
っていた
雅平
の
兄
が
凛
の
為
に
用意
していたのだろう
。
「
殿
にはお
会
いになったんですか
?」
「
ああ
、
祭事見物
の
後
にな
。
桂介
の
狩衣姿
と
見事
な
弓
の
話
をしたら
、
見
たかったととても
残念
がっていた
よ
。
たまには
城
でも
弓試合
でもするか
、
って
言
うから
、
結構
ですって
断
ってお
いた
」
雅平
の
落胆
した
顔
を
思
い
浮
かべて
、
桂介
は
苦笑
いして
同情
する
。
「
若様
、
たまにはああやって
殿
に
顔
を
見
せてあげてください
」
「
そうだな
、
じゃ
今度
は
桂介
が
水泳
をする
時
に
、
また
見物
の
会
を
開
こうか
」
「
そういう
事
をいいますか
」
今度
はむっとした
桂介
に
鷹月
はけらけら
笑
った
。
「
しかし
、
初
めて
知
ったよ
。
まさか
水
が
怖
いなんて
思
わなかった
」
「
御陰様
で
舟
にはもう
大丈夫
ですよ
。
これは
若様
と
凛
さんのお
陰
です
ね
」
まあ
、
泳
ぎの
方
はそう
簡単
に
克服
はできないでしょうけど
、
と
呟
く
。
「
ちょっとぉ
、
花火全部
やってないでしょうね
!?」
奥
から
パタパタ
と
小走
りにやってきた
凛
は
、
西瓜
を
切
って
乗
せた
器
を
縁側
に
置
きながらそう
言
った
。
凛
もすっかり
元
の
動
きやすい
格好
に
戻
っている
。
「
お
!
おれこっちにしよ
」
すっと
鷹月
が
体
をずらせ
縁側
の
奥
へ
行
き
、
西瓜
に
手
を
伸
ばすと
同時
に
、
その
空
いた
場所
に
凛
がすとんと
腰掛
ける
。
そして
先
ほどまで
鷹月
が
取
っていた
花火
の
山
から
一
本
つまみあげると
、
早速火
をつけて
嬉
しそ
うに
体
を
屈
めた
。
「
あ
ー
、
凛
?」
「
はいはい
」
鷹月
が
凛
の
背後
で
西瓜
の
汁
で
ベタベタ
になった
手
を
見
て
呟
くと
、
凛
は
振
り
返
りもせず
帯
に
挟
んでいた
手
ぬぐいを
鷹
月
の
背中
に
乗
せた
。
鷹月
はそれを
取
ると
満足
げに
手
を
拭
っている
。
桂介
は
思
わず
二人
のその
動作
を
見
つめて
、
固
まってしまった
。
そんな
桂介
に
気
がつき
、
凛
が
訝
しげに
覗
きこんだ
。
「
桂介
?
どうしたの
?
花火終
わってるわよ
?」
「
いや
・・・・
なんか
二人息
が
合
って
来
ましたね
」
「?」
しばらくその
言葉
の
意味
を
考
えて
二人
は
顔
を
見合
わせていたが
、
さっきの
状況
を
思
い
出
すと
、
慌
てたよ
うに
顔
を
逸
らせ
。
桂介
の
方
を
見
た
。
「
ば
、
ばか
。
そんなんじゃないよ
」
「
そうよ
、
桂介
ったら
!」
二人
ともなぜか
顔
を
赤
くしている
。
思
わず
桂介
は
笑
い
出
して
しまった
。
見物
をしていた
時二人
に
何
かあ
ったのだろうか
?
きっとこれは
夏祭
りの
御利益
なのかな
、
などと
思
いながら
桂介
は
手
を
伸
ばして
西瓜
を
一
切
れ
手
に
取
り
、
むしゃりとかぶりついた
。
「
うん
、
うまい
」
花火
の
匂
いと
西瓜
の
匂
いがしばしの
間三人
のまわりの
空気
を
清清
しい
夏
の
夜
に
変
えている
。
兎
にも
角
にも
三人
にとっ
て
思
い
出
に
残
る
夏
の
日
とな
った
のだった
。
終
わり
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